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部下個人に「ノルマを与えれば良い」は間違い

営業マンはノルマを課され、結果で評価されるのが日常茶飯事です。そのノルマに対して頑張って成果を出したら、歩合を支払う会社は今でも多い。フルコミッション(完全歩合給)というのも残っています。

 

しかし、成功している会社のほとんどはフルコミッション制を採用していません。

今回は、ノルマではない成果と評価の出し方を、事例を交えてご紹介しようと思います。

 

●フルコミッションを採用してしまった事例

【ケース・関西のリフォーム会社】

これは関西のリフォーム会社の事例です。頑張ったら頑張った分だけの給料を貰えば、やり甲斐があって自身になる、という考えに基づいて、フルコミッション制を実行していました。それにより、会社も営業マンもWIN-WINだと考えていました。

この会社の、社長は元トップ営業マン。高度成長期の、動いたら動いただけ物が売れる時代を体験していました。営業として抜群の実績を出し、独立。自分の経験を活かして、会社を大きくしていきました。

 

さて、ある日、一件家のご自宅を持つ3丁目のSさんから、600万円の大型リフォームの仕事が取れました。しかも若手営業の25歳のA君が引っ張ってきた話でした。

しかし、A君は困りました。600万円の大型リフォームといえば、ほとんど増築です。増築工事のリフォームになってくると、細かい見積書が必要です。今までのリフォームは、ただ網戸をつけるだけ。風呂釜を取り替えるだけ、といった感じの見積書が1枚で終わるようなものでした。大型になると、外壁・内装・外構なども必要です。準新築ともいえる規模でした。見積もりを作るのも難しく、専門の知識が必要でした。

 

でも、A君は見積書の作り方を、社内で聞くことができませんでした。何故、そんな簡単なことが聞けないのか?

600万円の大型の見積もりの話をすれば、先輩に受注をとられてしまうかもしれないからでした。知られると、無理やり同行訪問され、私は彼の上司ですので今後は私が担当します、と何食わぬ顔で手柄を持っていかれてしまうのです。

そういうことがまかり通るので、見込み客の情報をこの会社の営業マンは絶対に言わない。情報も、セールストークで上手く言った方法論も共有しない。この会社では、どの営業マンもずっとそうやってきたのです。

結果的に、社員の出入りも激しくなり、離職率が高くなりました。社員の雰囲気もギスギスして悪くなってしまった。

 

営業マンをどうやって頑張らせるかという話になると、営業出身で実績を出したことがある経営者ほど「人参をぶら下げて走らせよう」という発想になりがちです。自分自身、結果を評価されてきたので、他の者もその方がやりがいを感じると考えてしまうのでしょう。

しかし、若い営業マンはついてこない。「こんなところで汗をかいて、給料をもらえるか、もらえないかだったら、もうちょっとまともな所に行きたい」といって、逃げていきます。

背景には、今の日本という国は豊かだという事実があります。景気は悪いといっても、食うもの着るものは妥協すれば手に入る。公務員が人気職になる今、頑張る必要性を感じなくなっています。彼らにとって、ノルマは重く、フルコミッションは過大なストレスを約束する制度なのです。

 

●ノルマ・フルコミッション制からの解放

ロバート・メイジとピーター・パイポというアメリカの学者が「ビジネスマンが成果を出せない理由は何か」という研究をしたところ、

 

・30~40% 仕事の進め方がわからない

・30~40% 目標や役割について認識不足

・10~20% 能力が足りない

・10~20% 報酬や評価が不公平、不適切

 

という結果が出たそうです。多くの上司や経営者が、能力が足りないことが理由だと考えていたけれど、大きな要因は、自分の役割、自分をどういうふうに進めたらいいのかが解らないという事だったのです。

基本的な能力がないわけではないのです。仕事の進め方、目標、役割を明確化すれば、成果を出せるのです。つまり、仕事をマニュアル化して部下に丁寧に説明をする、情報や知識を共有する、ということが大事なのです。具体的に、この会社が何をやったかというと、三つの方法で売り上げアップに取り組みました。

 

●①仕事の進め方を教える~業務プロセス分解図~

「WBS(ワークブレイクダウンストラクチャ)…業務プロセス分解図」というものを使って、仕事のやり方を全てエクセル表にして、マニュアル化しました。

 

WBSとは、プロジェクトマネジメントで利用される計画手法の一種で、例えばシステムを開発するときに、システムの開発項目というものを全部リスト化して時系列に並べるのですが、このように作業工程を管理していく手法のことです。

例えば、見積もりを作る時には、まずこのフォルダを見る。こういう検索をして、似たテンプレートを引き出す。そして、作成後は上司に提出、何日前までに確認をする…といった営業の進め方を標準化するための、チェックシートです。

 

・お客様への事前準備は9つある

・まず、お客様の会社のホームページをチェックする

・顧客データベースを検索して、今まで顧客とどんなやり取りがあったのか履歴を確認します

……

 

といった作業チェックしながら進めていきます。営業のやり方、見積もりの作り方、お客様との喋り方など、全部マニュアル化したのです。営業マンはこれを基に、商談を進めていけば、仕事の進め方がわからない、といった問題は生じない。

これも売れる仕組みづくりの一環です。こうすれば、標準的な人材でも成果が出せるのです。

WBSに適した仕事の内容は次のようなものです。

 

・標準化したい仕事

・社員数教育、引き継ぎに時間がかかる仕事

・重要な仕事

 

こういった内容を全て、WBSで細かい表を作ります。この仕組みが出来上がれば、万一、社員が退職してしまってもスムーズに対応が出来ます。

 

●②仕事の進め方を教える~星取表~

営業マンの知識、能力の平準化には「星取表」が効果的です。これは、TOYOTA式の向上で導入されていたスキルマッピングのことです。

縦横の表になっていて、縦に人の名前、横にテレアポ、契約書作成、大型物件の提案力、企画力などのスキルが並んで書かれています。

 

・◎…人に教えられるぐらい出来る

・○…一人でできる

・△…先輩の助けを受けながら出来る

・×…出来ない

 

こんなふうに仕事の能力というのを全部洗い出します。

 

TOYOTA式の工場の生産現場では、縦列は人、横列は機械Aの操作、機械Bの操作、機械Cの操作というスキルが、◎、○、×、△と付けられています。

彼らは複数工程の作業を受けもつ能力をもつ作業者のことを「多能工」と言います。

繁忙期になると機械Aの回転率が上がってくるが、機械B・Cは運休するということが起こります。機械Aの操作スキルを持っている人が少ない場合、どうなるんでしょう? スキルを持った人だけが忙しく、その他の人は暇になりますね。

こうした、特定の時期に特定の人員にタスクが集中する、という偏りが起こります。資源の無駄を無くし、均等に配分することを目指すために星取表を活用しているのです。TOYOTA式工場の場合は人の欄に○が増えることは、職能が上がっていくという事になりますので、そのまま人事制度としても採用しています。

 

しかし、営業の場合は、全員が多能工、スーパーマンになることは難しい。もちろん全員が◎になるように頑張ることも良いのですが、みんなの力を繋ぎ合わせて○になれば良いんです。僕はここは出来ないけど、その分はAさんが頑張ってくれる、といったように、チームで成果を実現していきます。

 

●③仕事の目的と役割を教える~組織営業~

仕事の進め方を標準化させ、フルコミッション制から固定給にする。そうすると営業マンは安心して働けます。その土台が出来上がった上で、改めて営業マンの能力や成果を評価する人事システムを構築すると、売れる仕組みはいよいよ加速していきます。

ただ、ポイントとしては、個人だけを評価するのではなく、チームとして目標を出し、どれだけ成果をあげたのかを評価します。

 

チームで成果を出す、という考え方に変えていくと、みんなが協力できる体制になっていきます。「お客さんにこんな提案をしたら、これだけ売れたよ、他の人もこのやり方はいいんじゃないか」と上手くいった営業の成功事例を、協力しながらどんどん溜めていく。社内でのコミュニケーションが生まれ、雰囲気も良くなる。連動して成果も出る…という良いスパイラルが起こっていきます。

 

多くの営業マンが成果を出せない要因として持っている「目標や役割について認識不足」に関しては、あなたの役割はチームの中でこういう役割なんだ、うちはチームでこうやって戦っていくんだ、だから頼んだぞ、という事を明確にすることでカバーできるのです。

明確に役割が与えられ、目標を上司や仲間と共有できれば、多くの場合、ビジネスマンは成果を出せるのです。

これこそが、まさに営業現場の人間が望んでいることなのです。

この結果、関西のリフォーム会社では、なかなか伸びなかった業績が上昇カーブになって、前年比10%、15%で上向き傾向になりました。

 

●営業マン一人の力での限界

日本経済全体を通して言えるのですが、どの業種業界も、非常に知識産業化してます。たとえばホームページも、昔はHTMLという単純なタグだけで構成されていました。しかしたった数年でWEBには様々なサービスが登場し、スマートフォンといった新しい端末も出てきた。その全てに対応できるように日々、進化を求められます。

仕事のレベルが高度化しすぎて、営業マン一人で完結というのは難しくなっています。

だからこそ、みんなの脳みそを上手く組み合わせて、チームプレイでやっていかないと、お客様にご満足を頂けるレベルには到達できないのではないでしょうか。

 

また、情報を持っている人と、情報を持っていない人の二極化が進んでいるように感じます。社員の活躍のチャンスを増やすためにも、この内容を組織の中で活用してもらえればと思います。